徒花
夕方、ひとりで街を歩いている時、「マリア」と背後から呼び止められて振り向いた。
てっちゃんだった。
また髪型が変わっている。
「人の電話は無視しといて、何を悠々と歩いてんだか」
「だって、どうせいつも私を呼び出そうと思って電話してきてるだけでしょ。でも、残念。私はてっちゃんに付き合ってるほど暇じゃないの」
てっちゃんは、途端に憮然とした顔になる。
「沙希から聞いたけど、カレシできたって?」
「悪い?」
「相手、コウだろ?」
さすがに驚いた。
どうして知ってるの?
と、聞くより先に、てっちゃんが続ける。
「この前、一緒にいるの見たし。噂にもなってる」
「……噂?」
「お前さぁ、あいつのこと知ってて付き合ってんの?」
「何言ってんの?」
「あいつ、マジでやばいよ。頭イカレてるから」
言うに事欠いて、くだらない。
私はめんどくさくて肩をすくめる。
「別れろよ、そんなやつ」
「何でてっちゃんにそんなこと言われなきゃならないのよ」
「そいつと別れて俺とヨリ戻せって言ってんの」
「今更でしょ。もういいじゃない」
「今度はちゃんとするから」
「聞き飽きた」
高校に入る時にこの街にきて、その年の夏に、一個上のてっちゃんにナンパされた。
それから付き合うようになって、私たちは、ぐだぐだと、別れたり付き合ったりを繰り返してきた。