徒花


居酒屋の奥の席に、コウとカイくんはいた。



「おー、マリアちゃん! こっち、こっち!」


そう大きな声を出さないでほしい。

私は無視してコウの隣に座った。


コウはカイくんを無視し、私に「寒くなかった?」と聞きながら、



「ビールでいい?」

「うん」

「食いもんは?」

「適当に」


コウは店員を呼び、私の分のビールと焼き鳥を頼んでくれた。

それを眺めるように見ていたカイくんは、



「うぜぇ。ラッブラブかっつーの」

「邪魔者はさっさと消えろ」

「あぁ?!」


怒るカイくんと、「死ね」と中指を立てるコウ。

私はまた無視して、持ってこられたビールを流し込んだ。


カイくんは呆れたように煙草を咥える。



「でも、マジでコウがねぇ」

「何だよ?」

「いや、だって、信じられるか? みんな言ってるしさぁ。キャラじゃねぇじゃん」

「馬鹿め。俺は生まれ変わったんだよ」


それでもまだカイくんは納得していないような顔。

よっぽど、コウの過去はとんでもないものらしいけれど。



「嫌になるよなぁ。この街の可愛い子は、みーんな、コウの餌食だ。で、食ったら骨だけにされてポイ。今度はいつまで続くか知らないけどさ、俺はマリアちゃんが不憫で仕方ないよ」


わざとらしい言い方をするカイくんに対し、「記憶にない」とシラを切るコウは、「無視しとけ」と私に言った。

ビールが嫌に苦く感じる。
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