徒花
それでもカイくんのひとり言みたいなお喋りは止まらない。



「俺が女なら、嫌だけどねぇ、コウなんて。確かに顔がよくて金持ちのボンボンだけど、甘やかされて育っただけの放蕩息子で」

「カイ!」


制するように低い声を出したコウは、カイくんを睨み付ける。


でも、私は、それで合点(がてん)がいった。

コウが毎日のように仕事もしないでふらふらしてられる理由。



「親なんか関係ねぇだろ!」

「そういうことは、親の金で遊び歩くの辞めてから言えって」

「向こうが勝手に渡してくるもんをどう使おうと俺の自由だろうが!」

「そりゃあ、あれだけさんざん問題起こしてたら、親だって金渡して大人しくさせたいって思うっしょ」

「知った風なこと言ってんじゃねぇぞ!」


バンッ、とコウはテーブルを叩く。

一瞬、しんと店内は静まり返るが、すぐに元の賑わいを取り戻す。



『別にこっちは産んでくれとか頼んでないのに親が勝手に産んだわけじゃん?』

『だから育てる義務があって当然だし』


前にコウが言っていたことを思い出した。

だけど、そこまで親を恨んでる理由はわからない。



「コウ、携帯鳴ってるよ」


私の言葉にはっとしたようなコウは、舌打ち混じりに携帯を取り出した。

そしてディスプレイを確認するなり「ちょっと電話してくるわ」と席を立つ。



「カイ。マジでマリアに余計なこと言うんじゃねぇぞ」

「はいはい」


その背を見送ったカイくんは、その目を私に移し、



「女からの電話だったりしてー」


と、試すようなことを言って笑った。

何だかなぁ、と、私は思う。
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