徒花
「っていうか、何?」

「いや、暇してそうだったから。ついでに俺と付き合ってくんねぇかなぁ、と思ってさ」

「……は?」

「だから、俺と付き合えって言ってんの」


脈絡がなさ過ぎて、まるで意味がわからない。



「付き合うって何? 今、この瞬間から、私に、あなたのカノジョにでもなれと?」

「おー」

「『おー』じゃなくてさ。私とあなたは名前も知らない、初めて話したばかりの関係なのに、どうしてそういうことになるわけ?」

「でも、お前いっつも俺のこと見てたじゃん」

「自意識過剰ね。あなたが私を見てたから、私は視線を感じてそっちを向いただけ。それで目が合っただけなのに」

「あぁ、だって俺、お前のこと見てたもん」

「何それ」


話にならないと、本気で思った。

相手をしているだけ時間の無駄だと思ってしまう。


私は呆れ果てて席を立つ。



「どこ行くのー?」

「帰るのよ。これ以上、あなたと話してられないもの」

「だったら、まずはお互いを知る意味でも、デートしよう」

「はぁ?!」

「いいから、いいから。どうせ暇なんだろ?」

「ちょっと!」


腕を引かれて、振り払えないまま、私は店の外に連れ出された。

そのまま、駐車場まで無理やり連行されて。


止まっていたのは、黒塗りの明らかに怪しげな高級車。



「乗って」

「嫌。っていうか、こんなのにホイホイついて行って、ホテルにでも連れ込まれたら堪ったもんじゃないわよ」

「そんなことしねぇよ。乗れって」
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