徒花
「でも、どうかなぁ、あの人」


今まで私は、おばあちゃんに男の人を紹介したことなんてなかった。

だって、ろくでもないようなのとしか付き合ってこなかったから。


けれど、私だってもうハタチだし、いい加減、おばあちゃんを安心させる意味でも、嘘でもそういう人を連れてくるべきなのだろうと思い直し、



「まぁ、わかんないけど、聞いてみるよ」

「そうかい。楽しみだねぇ」

「そんな期待するほどじゃないと思うけど」

「何を言うんだい。マリアちゃんが選んだ人なら、間違いはないさね」


買いかぶりすぎだよと思いながら、私は苦笑いしか返せない。

おばあちゃんはしわくちゃの手で、私の手をさすりながら、



「おばあちゃんはね、老い先短いんだ」

「ちょっと、やめてよ、そういうの。おばあちゃんは元気じゃん」

「そんなことはないさ。あと10年、生きられるかどうかなんてわからない。それでもおばあちゃんは、マリアちゃんが幸せになったところを見届けてから死にたいんだ」

「おばあちゃん……」

「立派なウエディングドレスを着せてあげなきゃ、おばあちゃんは死んだ息子たちに申し訳が立たないよ」


おばあちゃんの目の淵は赤くなっていた。

私も泣きそうだった。


私は首を振る。



「私が幸せになったらおばあちゃんは死ぬんでしょ。だったら私、一生幸せになんかなりたくない。結婚だってしないもん」

「何を言うんだい」

「だって私、おばあちゃんが生きててくれる方が幸せだもん」


私は、人並みに結婚して子供を産んで、なんて未来は思い描けない。

むしろ、そんな気だってない。


ならば、それと引き換えにしてでも、おばあちゃんがずっと生きててくれることを望む。



たとえ無理だとわかっていても、そう望まずにはいられない。

< 41 / 286 >

この作品をシェア

pagetop