徒花
夜中にうちにやってきたコウは、酔っ払っていた。
「何? どしたの?」
「眠てぇー」
「ちょっと、ここは宿じゃないよ」
「冷たいこと言うなよー」
「ほら、ぐだぐだしないでよ」
「なぁ、食いもんねぇのー? 煮物食いてぇんだけどー」
ソファに寝そべり、駄々っ子みたいなことを言う。
私は呆れ果てた。
でも、コウが、「煮物」、「煮物」とうるさいので、仕方がないから、冷蔵庫から作り置いていたそれを取り出した。
「何でわざわざ夜中に煮物?」
「わかんねぇけど、酒飲んだら恋しくなるんだよなぁ」
「煮物が?」
「まぁ、お前も含めてだけどな」
本当に、この人は。
けれど、そんな一言で許してしまう私は十分甘いのだと思う。
あたためた煮物と、即席で作ったお茶漬けを、テーブルに並べ置き、
「コウって物好きだよね」
「うるせぇ。俺がいいって言ってんだから、いいんだよ」
コウは、言葉とは裏腹に、よろよろと体を起こした。
私は両親の写真を一瞥し、
「今日さぁ、私おばあちゃんに会いに行ったの」
「で?」
「おばあちゃんがね、コウに会ってみたいって言ってたの」
箸を持ち上げようとしていた手を止め、コウは私に目を移す。
「俺なんか紹介してどうすんの。それに、ガラじゃねぇよ」
「わかってるよ。でも、おばあちゃん、年の所為か、弱気になっててね。何か、見てられなくてさぁ」