徒花
未だに状況が把握できず、私は茫然としたきりで。


コウは、倒れ込む男の胸ぐらを掴んで引きずる。

反撃に出ようとした別の男を、今度はそのまま蹴り飛ばし、身のこなしは、まるでアクション映画みたいだった。



男の鼻血が血しぶきのように飛び、私はぞっとした。



「マリアちゃん、大丈夫?」


遅れてやってきたダボくんは、そんなものに何の関心も示さず、のん気に私の心配をしてくれる。



「……何、あれ……」

「あぁ、コウ? 困ったもんだよねぇ、まったく」


困るとか、そんなレベルの話じゃない。

私は身がすくみ、よたよたと足を引いた。



「コウは一回ああなったら、人の話なんて聞かないっていうか、届かないっていうか。キレたら手に負えないんだよ」

「………」

「さっきだって、マリアちゃんが遅いからって心配してたみたいで、したらこんなのじゃん? あいつ、わかってると思うけど、マリアちゃんのこと相当好きだから」


いくら好きだからって、こんなことしていいの?

と、思ってから、はっとした。


これは私の所為だ。



その時ようやく、『マジでやばい』と言っていたてっちゃん言葉の意味を理解した。



「こら、お前ら! 何やってんだ!」

「喧嘩はやめなさい!」


刹那、向こうから、笛の音と共に、警察官がふたり走ってくる姿が見えた。



「やべっ、おまわりだ! コウ、逃げるぞ!」

「うるせぇんだよ! こいつ殺さなきゃ気が済まねぇだろ!」

「いい加減にしろよ! マリアちゃんだっているんだぞ! ほら、早くしろ!」
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