徒花
これが日常だとでもいう空気に、私はついていけず、顔をうつむかせる。

そんな私に気付いたカイくんは、



「大丈夫?」

「え? あ、うん」

「ほんとに? 顔青いけど」

「大丈夫だから、ほんとに」


私はもう一度言って、目を逸らした。

カイくんは「ふうん」としか返さない。


コウは不機嫌そうに、テーブルにあった、誰のものかもわからないビールを、一気飲みする。



「おいおい、コウ。どしたよ? まだ怒ってんのかぁ?」


ユキチくんがへらへら笑いながら、なだめるようにコウの肩を抱こうとした。

けれど、コウは「うるせぇんだよ」とそれを払いのける。



「触んな。殺すぞ」


そして私を一瞥し、



「ちょっと来て」


と、手を引いた。


困惑しながらも、やっぱり怒ってるようにしか見えないコウに、嫌だとは言えない。

そのまま、トイレに押し込められ、ガチャリ、と鍵が掛かる音。



「……コウ?」


恐る恐る顔色をうかがおうとした瞬間、壁に押し当てられて、無理やり唇を奪われた。



「ちょっ」

「黙れよ。声出すな」
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