徒花
願い
ふらりとクラブに足を向けた。
沙希は私を見つけてアルコールグラスを差し出し、
「誘っても来ないで、最近は付き合い悪いくせに、今日はいきなりどうしたの?」
「別に。そういう気分だっただけ」
沙希は「ふうん」と言いながら、自分で私に差し出したグラスのアルコールを流し込み、
「いっつもカレシと一緒らしいじゃん。コウっていうんでしょ? てっちゃんから聞いたけど。あんまり評判よくない人なんだってね」
「てっちゃんの言うこと間に受けないでよ」
「じゃあ、実際は違うの? まぁ、てっちゃん、今でもマリアに未練ありまくりみたいだしねぇ。この前も飲んで愚痴ってたよー?」
今はてっちゃんの話なんてしたくもなかった。
でも、だからって、コウのことも話したくはなかった。
沙希はそんな私に気付かず話し続ける。
「てっちゃんもさぁ、さすがに今回ばかりは、マリアにマジなカレシができて焦ったみたいで、改心したっぽいよ?」
「遅いし。それに、てっちゃんなんていっつも口ばっかりで、最初だけじゃん。そんなのいちいち信じてたら、こっちが馬鹿を見るだけでしょ」
「まぁ、それを繰り返してきた結果が今だもんねぇ」
肩をすくめて沙希は言う。
「沙希、てっちゃんと仲いいんだね」
「何だかんだでねぇ。最初はマリア繋がりで知り合ったけど、今じゃ飲み仲間っていうか、あたしはてっちゃんの愚痴を聞いてやる係だよ。ほんと、お金取りたいくらい」
「あぁ、だから今は、私じゃなくててっちゃんの味方してるわけだね、沙希は」
「ちょっと、ちょっと。あたしは別に、誰かの味方とかじゃなくてさぁ」
「違うの?」
「まぁ、違わないこともない、けど」
歯切れ悪く言う沙希に、思わず笑ってしまった。
私は息を吐き、
「てっちゃんのこと、よろしくね」
「……え?」
「私は何度も言ってる通り、もうてっちゃんとは他人だから」