徒花
「うん?」

「コウの家族って、どんなの?」


聞くのは結構勇気がいった。


でもコウは、もしかしたら聞いてほしかったのかもしれない。

私の問いに、諦め混じりの顔で肩をすくめ、



「うちは、俺以外は仲いいみたいだけど。だから邪魔者はこっちで大人しくしてまーす、みたいな?」

「………」

「姉貴ふたりは、今は結婚して家出てんだけど。でもあいつらはあいつらで、結婚相手の家に対して、俺の存在が恥ずかしいみたいでさ。昔は俺のこと可愛がってたくせに、今じゃもう」

「………」

「だから家族の集まりとかあっても、俺がいない方が何かと上手くいくみたいでさぁ。まぁ、実家なんて当分帰ってないから知らねぇけど」


コウの吐き出した煙が、風に流れていく。

でも、コウの物憂い顔は晴れなくて。



「コウって3人姉弟なの?」

「いや、4人。俺の下にもうひとり、弟が」

「すごいじゃん、それ。兄弟がたくさんいるって、羨ましいけど」

「そうか? 上ふたりが女で、俺は待望の後継ぎの男の子。なのに、今じゃ弟の方が長男みたいな扱いだけどな。ほら、俺は失敗作だから、もう一度作り直したって感じじゃね?」


コウは吐き捨てるように言う。



「俺、嫌いなんだよな、弟のこと。だってあいつだけ、親父の後妻が産んだ子だぜ? おまけに優秀。そんなのと、どうやって仲よくしろっつーの」

「………」

「大体さぁ、ある日突然、知らない女がうちに来て、今日からこの人がお母さんです、なんて、気持ち悪ぃだろ。しかも腹ボテです、って。親父も親父だし」

「………」

「親父からしたら、母親の遺伝子が悪かったから俺がこんな風になった、とでも思ってんのかもな。だから別の、若くて賢い女の遺伝子で、みたいな?」

「………」

「うちは壊れてんの。そりゃあ、おふくろも出て行くよなぁ。いくら金があったって、おふくろが本当に求めてたものはあの家にはないんだから」
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