徒花
「声を掛けてくるのが遅かったわね。ってことで、もう“ただの暇人”になった私には興味ないでしょ。降ろしてよ」

「何で?」

「は?」

「別に俺、お前がキャバでナンバーワンだから声掛けたわけじゃねぇし。つか、それ知ったのって最近だし。それより前から俺はお前を見てたもん」


コウはふっと笑う。


さらりと口説き文句を言える男らしい。

私はその手には乗らないが、でもよく見ると鼻筋の通った整った顔立ちをしていて、これに騙される女は多いんだろうなと思った。



「さっきから何なの? 何でずっと私を見てたの?」

「さぁ? 何でかはわかんないけど、気付いたらいっつもお前のこと見てた。一目惚れってやつかもな」

「馬鹿じゃないの。そういうこと堂々と言わないでよね」

「いいじゃん、ほんとのことなんだし」

「何がいいのよ。あなた、別に女に不自由してないでしょ。よくあのショットバーでも女の子に囲まれてイチャイチャやってたじゃない」

「よくご存じで。やっぱり何だかんだでお前も俺のこと見てたんじゃん」


動じることはないどころか、開き直りやがって。


確かに私もこの人を見ていたし、それは認める。

けど、でも、それは好意的な意味でじゃない。



「私はあなたが嫌いなの」

「何で?」

「見透かされるみたいで。目が合っても、絶対に逸らさない。穴が開くほど私を見るその目が、怖いのよ」


コウは、ふう、と煙を吐き出した。

そしてまた私を横目に見て、



「そこまで意識されてただなんて、嬉しい話だな」


目を細めて、笑う。

また私を見透かすような目で。



「俺、お前のこと好きだよ。どこがどうとかじゃなくて、感覚的な意味で。だから『俺と付き合え』って言ったの」
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