徒花
会いに来たら、おばあちゃんはベッドにいた。
そして突然の私の訪問に驚きながらも、ひどく喜んでくれた。
「ごめんねぇ、マリアちゃん。折角来てくれたのに、こんな姿を見せちゃって」
「いいよ、寝てて。それより、どうしたの?」
「また腰を痛めちゃってねぇ。最近、調子がよかったからって、無理しちゃった所為で」
「だから言ったじゃん。おばあちゃん、すぐ動きたがるんだから」
おばあちゃんは困ったように笑いながらも、私の後ろにいるコウに目をやり、
「そちらの方は?」
「コウ。ほら、この前話したでしょ。カレシ」
紹介するように言うと、コウは一歩前に出て、おばあちゃんに頭を下げた。
そして人懐っこい笑みで、「はじめまして」と言った。
「マリアさんとお付き合いさせていただいています。ご挨拶が遅くなって申し訳ありません」
品行方正。
コウは時々、育ちのよさを見せることがある。
別人みたいだなと、私は心の中で笑った。
おばあちゃんは体を起こした。
「遠いところ、こんな老人の我が儘のために、わざわざありがとうね。先に言っといてくれたら、もう少しちゃんとした格好でお迎えできたのに」
「とんでもないです。こちらこそ、突然すみませんでした。でも、マリアさんからうかがっていた通り、素敵なおばあさまで感激しました。ベッドの上でなければ、間違って恋をしていたかもしれません」
「まぁ、お上手ね」
頬を赤らめるおばあちゃんなんて、初めて見た。
コウは本当に『お上手』だ。
心配の意味がなかったどころが、逆に完璧すぎて目眩がした。