徒花
「ちょっと、どさくさに紛れて私のおばあちゃんを口説かないでよ!」

「嫉妬するな。見苦しいぞ」

「してないわよ! っていうか、『見苦しい』って何よ!」


したり顔のコウに、イーッとする私。

おばあちゃんは声を立てて笑う。



「仲よしだねぇ。おばあちゃんは嬉しいよ。マリアちゃんはお友達さえ滅多にうちに呼ばないような子だったから、恋人の前での姿なんて想像もできなかったけど」

「………」

「おばあちゃんは安心したよ。本当に嬉しいんだよ」


おばあちゃんは私の手を取って、涙の一筋を零す。

コウはベッドの下でひざまずいた。



「マリアさんをここまで育ててくださって、ありがとうございます。彼女のおかげでぼくは毎日楽しいんです。それに何より、煮物もすごく美味しいですし」

「そうかい、そうかい。それを聞けて、もう思い残すことはない」


おばあちゃんは涙を拭って笑顔を見せた。



「こんな老いぼれのために、嘘でもそこまで言ってくれる。あなたが本当はどんな人だっていいんだ。マリアちゃんが幸せだと思えてるなら、それ以上は望まないさ」

「………」

「マリアちゃんを――私の可愛い孫を、よろしく頼んだよ。そしてできることなら、マリアちゃんのウエディングドレス姿を見せてほしい」

「おばあちゃん!」


さすがに制した。

けれどおばあちゃんは、首を振り、



「まだ若いあなたには少々重い話かもしれないが、マリアちゃんを守ってあげてください。我慢強いけど、この子は影ではただの泣き虫なんだ」


おばあちゃんはくすりと笑い、そして私に目をやった。



「マリアちゃん。女は愛した人を信じてついていけばいいんだよ。何があったって、掴んだら離しちゃダメだ」

「おばあちゃん……」

「一生を添い遂げるということは、並大抵じゃない。苦労の方が多い。けど、最後に残るのはたくさんの思い出と、愛しかないんだから」
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