徒花
おばあちゃんの想いに、そしてその手のあたたかさに、涙が溢れてくる。
コウは立ち上がり、困ったように笑いながら、
「ほんとに『ただの泣き虫』だもんなぁ」
と、私の頭を撫でた。
私はおばあちゃんの手を強く握り返す。
「それじゃあ、遺言みたいじゃない」
「遺言さね。卑怯な年寄りだと思ってくれていい。それでもちゃんと、おばあちゃんが今言ったことを胸に秘めておくんだよ」
「何でそんなこと言うのよ……」
震えた声で問う私に、おばあちゃんはふと悲しそうな目を伏せ、
「あの日、息子夫婦に――マリアちゃんの両親に、『たまにはふたりで出掛けてくればいい』と言ったのは、この私だよ」
「………」
「それがあんなことになるなんて。私があんなことさえ言わなけりゃ、マリアちゃんが悲しむことだってなかったんだ」
「………」
「すべては私の所為なんだよ。代われるものなら代わりたいと、何度思ったことか。それでも息子夫婦が還ってくることはない。死んだ人間は生き返らない」
「………」
「なのにマリアちゃんは、私の前で気丈に振る舞って、いつもにこにこしていてくれた。どんな気持ちなのだろうかと思う度に、胸が張り裂けそうだった」
「………」
「だから私は、マリアちゃんに償わなきゃならないんだよ。マリアちゃんが幸せでなくちゃ、死んでもおちおちあの世にも行けやしない」
「………」
「希望なんだよ。マリアちゃんが幸せになることは、すべての人の願いなんだ」
一気に言ったおばあちゃんは、ゴホゴホと咳き込んだ。
昔より随分小さくなった背中。
私は目を逸らしてその背をさすってあげた。
顔を上げたコウからは、先ほどの、品行方正な男の子の笑みは消えていて、
「マリアは俺が幸せにしますから、もうご自分を責めるのはやめてください」
コウは立ち上がり、困ったように笑いながら、
「ほんとに『ただの泣き虫』だもんなぁ」
と、私の頭を撫でた。
私はおばあちゃんの手を強く握り返す。
「それじゃあ、遺言みたいじゃない」
「遺言さね。卑怯な年寄りだと思ってくれていい。それでもちゃんと、おばあちゃんが今言ったことを胸に秘めておくんだよ」
「何でそんなこと言うのよ……」
震えた声で問う私に、おばあちゃんはふと悲しそうな目を伏せ、
「あの日、息子夫婦に――マリアちゃんの両親に、『たまにはふたりで出掛けてくればいい』と言ったのは、この私だよ」
「………」
「それがあんなことになるなんて。私があんなことさえ言わなけりゃ、マリアちゃんが悲しむことだってなかったんだ」
「………」
「すべては私の所為なんだよ。代われるものなら代わりたいと、何度思ったことか。それでも息子夫婦が還ってくることはない。死んだ人間は生き返らない」
「………」
「なのにマリアちゃんは、私の前で気丈に振る舞って、いつもにこにこしていてくれた。どんな気持ちなのだろうかと思う度に、胸が張り裂けそうだった」
「………」
「だから私は、マリアちゃんに償わなきゃならないんだよ。マリアちゃんが幸せでなくちゃ、死んでもおちおちあの世にも行けやしない」
「………」
「希望なんだよ。マリアちゃんが幸せになることは、すべての人の願いなんだ」
一気に言ったおばあちゃんは、ゴホゴホと咳き込んだ。
昔より随分小さくなった背中。
私は目を逸らしてその背をさすってあげた。
顔を上げたコウからは、先ほどの、品行方正な男の子の笑みは消えていて、
「マリアは俺が幸せにしますから、もうご自分を責めるのはやめてください」