徒花
コウはおばあちゃんの目を真っ直ぐに見据え、はっきりとそう言った。

それを聞いたおばあちゃんは、安心したかのように、肩を揺らしながら泣いた。


本当に『卑怯』なのは、どちらなのか。



「私たち、もう帰るよ。腰がよくなったら、またおばあちゃんの好きな桜を見に行こうよ。バラ園にも、あじさい畑にも行こう。一緒に、いっぱい行こうね?」

「マリアちゃん……」

「私は大丈夫だから。この通り、コウもいるし。だからおばあちゃんは、ずっと元気でいてね。また来るからさ」


私はコウを引き連れて、部屋を出た。


我慢していたのに、車に乗った瞬間、思い出したように大粒の涙が溢れてきて、そしたらコウに抱き締められた。

おばあちゃんの手と同じくらいにあたたかいと思った。



「ありがとう、コウ」

「うん」

「ほんとに、ほんとに、ありがとね」


コウはまた「うん」とうなづきながら、息を吐いた。



「いいばあちゃんだったな。何か、素直に羨ましいと思った」


そしてコウは体を離し、「慣れないことしたから顔が筋肉痛になりそうだわ」といたずらに笑う。

私も涙を拭って笑った。



「百点だった」

「百万点だよ、馬鹿。もう、シュミレーション通りっつーか」

「うそっ、練習してたの?!」

「当たり前だろ。無策で挨拶に行くやついねぇよ。俺だって真面目に考えてんだから」

「でも、『ぼく』とか『マリアさん』には、ちょっと笑った」

「うるせぇ。それ二度と言うな。特に、カイたちの前では、死んでも言うなよ」

「どうしよっかなぁ」

「おい」


コウは怒った顔で私の頬を掴み、でもすぐにふっと笑って、



「お前のためじゃなきゃ、こんなことしねぇよ」
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