徒花
嫌な男だ。


相変わらず、たった一言で簡単に私の心をかっさらう。

いや、おばあちゃんの心もまた、この男にかっさらわれてしまったのだろうけど。



「コウってさ、詐欺師かホストに向いてるよね」

「よく言われる」

「それって、みんなにそういうこと言ってるってこと?」

「言ってねぇよ。他の女なんかいらねぇし。お前だけだって」

「嘘だぁ」

「バレたか」

「ちょっと!」


怒る私と、べーっと舌を出すコウ。



「でも、ばあちゃんの言いつけ通り、俺のこと掴んで離すなよ? 振り落とされないようにしねぇと、折角の、俺という名のいい男に逃げられるかもだしな」

「そんな男なら、さっさと海にでも突き飛ばしてやるわよ」


言った私に、コウは「それ最高」と、動じることなくケラケラと笑う。

品行方正な面影はもうどこにもなくて、



「けど、海に突き落とされたら、お前も巻き添えにしてやるよ。逃がさねぇ。一緒に死んでやる。覚悟しとけ」

「無理」

「はぁ?!」

「何で私まで一緒に死ななきゃならないのよ!」

「つーか、お前いっつも肝心なとこで拒否るよな。それは何かの作戦か?」

「だって、ずっと一緒に生きてる方が楽しいじゃない。たとえ嘘つきな男とでも」


コウは私の言葉に一瞬、目を見開いて、でもすぐにまた笑った。

笑いながら、「最後の一言は余計だ」と、今度は私の反対の頬を掴んだ。


そのまま両方から引っ張られて、私は痛くて涙目になった。



「ほんとムカつく女だよ、お前は。俺をここまで本気にさせやがって。やっぱあの時、声掛けるんじゃなかった。ったく、こうなるってわかってたのに、まんまと引っ掛かってる俺は間抜けだよ」

「でも私、好きだよ、『間抜け』なコウ」

「うるせぇ」


コウは諦めたように口を尖らせた。

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