徒花
折角来たし、まだお昼ということもあり、私たちは観光してから帰ることにした。
生まれ育った、私の地元。
コウは「初めて来た」と言っていた。
「いいとこだな」
「でしょ? 特に何があるってわけじゃないし、そんなに大きくない町だけど、私ここ大好きなんだ」
「なのに、何であんな街に?」
「昔はね、こんな小さな田舎町は嫌だー、って飛び出したんだけど。おばあちゃんがホームに入るって言うから、ちょうどいいやって。もちろんおばあちゃんが嫌いとかじゃなかったんだけど」
「………」
「でもさ、不思議なもんで、離れてみたら恋しくなっちゃって。この町も、おばあちゃんも」
「俺は嫌だけどねぇ、地元。いい思い出ないし、会いたいと思うやつもいない。だからあんなゴミゴミしてる街でも、地元よりはよっぽどマシ」
「まぁ、私も、向こうは向こうでそれなりに楽しいとは思うけどさ。だけどね、やっぱりいつかはこっちに戻りたいって気持ちはあるよ。先のことはわかんないけど」
神社へと続く石畳を、並んで歩く。
無病息災の神様が祭られているところ。
木々は風を受けてざわざわしている。
「いいな、それ」
「え?」
「俺も先のことなんてわかんないけど、もしも、もしもだけど、お前と結婚して、そんでお前がここで暮らしたいって言ったら、それもアリなんじゃねぇかなぁ、って」
「……嘘?」
「何でだよ。今のはマジな話だっつーの」
驚いて立ち尽くしてしまった私を無視し、本堂の前で足を止め、賽銭箱に小銭を投げて、コウは手を合わせた。
二礼・二拍手、そしてまた一礼。
見た目は今時のヤンチャ男のくせに、コウはやっぱり当たり前のようにこういうことをする。
「ばあちゃんの腰が早くよくなりますように。あと、俺が怪我しませんように」
「ちょっと、私のことは?」
「それは頼む必要ない。俺が守るってさっき言ったろ?」