徒花
私は卑怯なのだ。


どうすればコウがこう言うかをわかっていて、わざとした。

そしてコウは、私の想像通りの言葉を口にする。



「過去なんか関係ねぇし、話すことなんてねぇもん。俺はお前だけがいたらいいの」

「じゃあ、元カノには会わないんだね?」

「当たり前だろ」


『掴んだら離しちゃダメ』か。

本当におばちゃんの言った通りだ。


コウは、掴む手を離せば飛んで行ってしまう、風船のよう。



「じゃあ、いいよ。あ、ご飯行こうよ。私もうお腹空いちゃって」

「おー」


何を不安になっているのかと思う。

それはつまり、私は本心ではコウを信じていないということなのかもしれないけれど。


愛と執着は、似て非なるものなのに。



そう、頭ではわかっていながらも、心は裏腹に、醜く黒くなっていく。



「ご飯の後、ビリヤードしに行こうよ。私ちょっと上手くなったんだよ」

「マジで?」

「マジで、マジで。最近、何かハマっちゃってさぁ。もういっそ、プロ目指そうかと思ったりして」

「いや、それは無謀だわ」

「夢は大きくって言うじゃない」

「大きすぎる。現実を見ろ」


笑いながらも、反面で、冷静じゃない自分もいた。


コウは今、何を考えているだろう。

元カノのことを考えていたらどうしよう、と。

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