徒花
「あのねぇ、今の話、ちゃんと聞いてた? 私は『あなたが嫌い』って言ったんだけど」

「でも俺は『好きだよ』って言ったよ」


ほんとに噛み合わない。


なのにコウは笑う。

今度は少し、いたずら少年のような顔をして。



「まぁ、そのうちお前も俺のことが好きになるさ」

「すごい自信だこと」

「だって、俺らは似てるもん。毎日が退屈で仕方がない。けど、きっと、ふたりでいたら楽しめる」


私はいよいよ呆れ果てて、何も返さず肩をすくめてだけ見せた。


本当にこの男は、透視能力でもあるのだろうか。

どうして今日初めて喋ったばかりの私のことが、そこまでわかるのか。



国道をひた走っていた車は、住宅街を抜け、やがてはなだらかな山道を登り始めて。



「ちょっと、ここどこ?」


やっぱり私は人気(ひとけ)のないこんな場所でヤリ捨てられるのかと、思って怪訝に聞いてみたら、



「いいから。心配しなくてもお前が考えてるようなことはしねぇよ」


コウはまた私の思考を読んだみたいなことを言う。



車は山の中腹部にある駐車場らしきところへ入った。

エンジンを切ったコウは私に「降りて」と促す。


またそれにしぶしぶ従いながらも、信用できないというオーラ全開の私は、歩き出したコウと距離を取った。



「こっち」


言われた場所に立って、驚いた。

丘のようになっているそこから、眼下に街を一望できる。



「何これ、すごい」

「だろ? 俺のとっておきの場所だから、誰にも言うなよ?」
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