徒花


明日が終われば、元カノはこの街からいなくなる。


もう少し。

もう少し我慢すればこの杞憂は解消されるはずなのだ。



私とコウは、居酒屋でビールを傾けた。



「ねぇ、旅行にでも行かない?」

「旅行?」

「うん。さっき、旅行代理店の前を通った時に、パンフレットもらってきちゃった。こことかよくない?」

「遠いだろ」

「新幹線だと2時間くらいだよ。すぐじゃん」

「いいけど、いつ行くの?」

「今からは?」

「は?」

「たまにはそういうのもアリかなぁ、って。ここでぐだぐだやっててもつまんないし。今からならまだ新幹線あるから、飛び乗ればいいじゃん」

「………」

「ホテルはどうにでもなるし、そしたら明日の朝イチから観光できるよ。ほら、このパンフレットに載ってるこことかここ、行ってみたくない?」


私はコウにそれを見せて、はしゃいだ。


けれど、私は、自分が思っている以上に必死になっていたのかもしれない。

コウはうんざりした顔で息を吐いた。



「俺、今日はそんな気分じゃねぇよ。だりぃし」

「……え?」

「どのみち明日は全国的に雨だって天気予報で言ってたじゃん。別にそんな時に行かなくても、今度でよくね?」


何でコウがそんなことを言うのか、まるで理解できなかった。



「それって、私と行くのが嫌だってこと?」

「はぁ?」

「私とだから、一緒に行きたくないってことでしょ?!」
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