徒花
時計の針は真上を向いている。
コウからの連絡はない。
午前0時を過ぎると、さすがに私も冷静になり、どうしてあそこまで言ってしまったのかと反省した。
だから私から謝るべきだと思い、コウに電話をかけたが、
「――…になった番号は、現在、電波の届かないところにあるか…――」
聞こえてきたのは機械的なアナウンスで、ゆらり、と、視界が揺れた。
何が何なのかわからない。
嫌な予感が体中を駆け巡り、私は家を飛び出した。
先ほどの居酒屋や、いつもコウと行ってた場所を、しらみつぶしに探したけれど、どこにもいなかった。
それでも、確信に変わりそうになる想像を、必死で振り払う。
ありえないことだと言い聞かす。
けれど、最後に立ち寄ったいつものショットバーにもいなかった時には、もうどうすればいいかもわからなくなり、途方に暮れた。
泣きそうになっていた私に声を掛けてきたのは、カイくんだった。
「マリアちゃん? 何? 珍しいじゃん。今日はコウと一緒じゃないんだ?」
カイくんは女を腕に絡ませていた。
でも、「ちょっと向こうに行ってて」と、その子を追い払い、
「つーか、どうしたの?」
こんなこと、誰にも言いたくはなかった。
でももう、他に手はなかったから。
私は吐き出すように言った。
「コウと連絡が取れないの……」