徒花
吐きそうだった。

コウは“千夏さん”と今、どう過ごしているのかと想像するだけで、体の中心にある炎が爆発してしまいそうで。



「じゃあ、もしコウがこのまま千夏を選んでも、指を咥えて見てるってことだ?」

「………」

「泣いて縋れば、あいつ、戻ってくるかもよ。情に訴える作戦。してみる価値くらいあると思うけど」


よくわからない人だ。



「カイくんってさぁ、ほんとは誰の味方なの?」

「さぁ? でも、コウの味方じゃないことは確かだね」

「何で? 友達でしょ?」

「まぁ、確かに親友ではあるけどさ。それでも、あいつは少し、こういう面では適当すぎるからね」


私の前でだけなのか、それとも本気で言ってるのか。

けれど今はそれに少し救われる。



「何か、嫌になっちゃうよね。私何やってるんだろう、って」

「千夏も昔、同じこと言って愚痴ってた」

「マジで? 私、そんなことでコウの元カノと同じになりたくないんだけど」


カイくんは苦笑いする。

私は息を吐いた。



「帰るよ、私。帰って、ひとりでゆっくり、色々考える」

「コウに会ったら、何か伝えとくことは?」

「ない」


カイくんは、笑いながら「了解」と言って、手をひらひらとさせる。

私は席を立って店を出た。


カイくんに言われた言葉が、ちくちくと心のひだを刺す。



泣いて縋ることすらできない私は、闘わずして白旗を揚げることになるのだろうか。

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