徒花
「子供は男と女、ふたりだな。いや、でも、もうひとりくらいは欲しいかも」

「そんなに?」

「必ずみんなで晩飯。これを破ったやつは罰を下す。そんで、食後にみんなでゲームして寝るんだよ。川の字になって。で、娘が俺に『パパ、おやすみのチュー』とか言って」

「馬鹿じゃん」


呆れてしまう。

でも、コウは本気みたいだった。



「私、結婚とかそういうの、まだわかんないし」

「誰だってそうだろ。したことないんだから。だから、してみりゃわかるっしょ」


楽観的な男だ。



「いいの、いいの。案外、どうとでもなるって言うじゃん?」


でも、コウが言ったら本当にどうにかなる気がしてくるからすごい。

ろくでなしの、浮気男のくせに。



「でも、当分はダメ」

「何が?」

「結婚とか、そういうの」

「何でだよ」

「浮気した罰」


言ってやると、コウはぐうの音も出ないといった顔で、口を尖らせる。



「カイくんから聞いたよ、“千夏さん”のこと」

「あいつはまた、べらべらと」

「可愛い人なんだってね。私とは真逆じゃない。腹立つー」

「だから俺が今愛してんのはお前だけだっての。何回言わせんだよ」

「何回でも言ってよ。足りない」

「我が儘なお姫様だな」


だけど、コウは私の耳元に「愛してる」という言葉を寄せる。

目が合って、キスをして。


それだけですべて許せてしまう自分がいて、本当に腹の立つ男だと思った。

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