徒花


あれから、コウとは、半同棲のような状態になった。

コウは、たまに自分の部屋に着替えを取りに帰る程度らしく、勝手に私の部屋に住み着いたという感じ。



「ねぇ、何で自分の部屋に帰らないの?」

「俺といるの、嫌?」

「じゃなくてさぁ。家賃、もったいないじゃん」

「別に俺が払ってるわけじゃねぇから、どうでもいいよ」


コウは肩をすくめ、



「元々、あそこは親父が持ってる部屋のひとつだったんだけど。ある日突然、『今日からお前はあそこで暮らせ』、『早くうちから出て行きなさい』ってさぁ」

「………」

「だからもし仮に俺が、汚そうが壊そうが関係ねぇし。まぁ、今はほとんど物置みたく使ってるけどな」


コウはやっぱり何でもないことのように言う。

けれど私は、その度に少し悲しくなってしまう。


仲よくしてほしいだなんて、何も知らない他人の私が言えるようなことでもないけれど、でも親を恨むべきじゃない。



「コウってほんとにお父さんのこと嫌いだよね」

「当たり前だろ、あんなやつ」

「でも、お父さんはコウのこと、嫌いってわけじゃないと思うけど」

「はぁ?」

「だって、ほんとに嫌いなら、住むところを用意したり、お金くれたりせずに、ただ身ひとつで放り出すのが普通じゃない?」

「世間体だよ、ただの。息子はひとり暮らしを始めたから家にいないだけです、ってな。勘当したなんて人に言えねぇだろ? そういうやつなんだよ、あいつは」

「そうなのかなぁ?」

「お前は親父の味方かよ。何も知らないからそういう風に思えるだけだろ」


舌打ち混じりにコウは言う。



確かに私はコウのお父さんのことなんて全然知らない。

けど、でも、それはコウの側から見た意見であって、たとえ実際にそう言われたとしても、言葉が額面通りとは限らないのだから。


なんて、これ以上、コウを怒らせるようなことは言わないけれど。

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