徒花
肩で息をしながら、コウは、



「とーにーかーく、俺とマリアは別れねぇんだよ! つーか、俺らはもうすぐ結婚するんだ! どうだ、羨ましいだろ!」


ゲラゲラと笑う。

ユキチくんとダボくんは目を丸くしていた。


ふたりは顔を見合わせ、同時に私に振り返り、



「マリアちゃん、こいつの言ってること、マジ?」

「ははっ」


私は適当に受け流す。


大体、こういうことって、もっとちゃんと、折りを見てきちんと言うもんだと思うし、こんな鬼ごっこみたいなののついでに言うことじゃない。

それなのに、この男ときたら、まったく。



「マジかよ。コウがだぜ? マリアちゃんもどうかしてるよ」

「だよなぁ。折角、コウと別れるチャンスだったのに、まさか結婚宣言とは」

「ほんと、こんなろくでなしの旦那なんてなぁ。子供はもっと不憫だよ」

「俺、親父がこんなだったら、即、家出するな。唯一の取り得の顔だって、おっさんになったらどうなるかだし。あとはコウに何がある?」


ぎゃあぎゃあ騒いで悪口を言うふたりに、コウはついに、「あぁ?!」とキレた。



「揃いも揃って、俺を何だと思ってんだよ! ふざけんなっつーの! 嫉妬か? 嫉妬してんだろ?! 俺の幸せを妬んでんだろ?!」

「妬んでねぇし」

「嘘つけ! ムカつく! 俺はやるって言ったらやる男なんだよ! お前ら、今に見てろよ!」


コウは子供みたいな台詞でわめいていた。


私は呆れ返る。

ユキチくんとダボくんも、本気にすることもなく、ギャハハハハ、と笑うだけ。



「ちょっと、コウ。いい加減にしてよ。うるさい」


私は堪らず口を挟んだ。
< 87 / 286 >

この作品をシェア

pagetop