徒花
ひとしきり笑ったふたりは、コウに酒を差し出し、



「そう怒るなよ。で? いつするんだ? 結婚」


今度はなだめるように聞く。

コウは舌打ち混じりに酒を受け取り、



「どうせなら、ハタチのうちにしときてぇとは思うけど。まぁ、なるべく早くだな」

「式は?」

「するよ。五百、いや、千人は呼んで、盛大に」

「千人ってお前、それじゃあ、芸能人か政治家レベルだろ。そんなに呼ぶやついんのかよ」

「うるせぇなぁ。呼んだもん勝ちだろ。大体、一生に一度の大イベントなんだから、盛大にしねぇでどうすんだよ」


さすがにそれには、ユキチくんとダボくんも肩をすくめて顔を見合わせる。



「馬鹿だ」

「やっぱこいつ、本物の馬鹿だ」

「あぁ?!」


で、また始まった、鬼ごっこ。

結婚式もこんな調子だったらどうしようと、一抹の不安がよぎる。


そんな時だった。



「よう、コウ! ユキチとダボも揃ってんじゃねぇか。カイはどうしたよ?」


恰幅がいい、スーツの人が、背後から声を掛けてきた。

後ろに何人かを従えて、とても一般人とは思えないような空気をまとっている。



「何だよ、飲んでんのか? いいじゃねぇか、いいじゃねぇか。今日は気分がいいんだ。お前らの分、払っといてやるよ」

「菅野さん……」


菅野さんと呼ばれたその人は、鋭い目をさらに細めてクッと笑う。



「ところでお前ら、いつになったらうちの組に入るんだよ? いい加減、待ちくたびれたぞ」

「入らないって言ってるじゃないっすか。俺らはヤクザ屋に就職なんてしませんよ。自由に遊んでる方が性に合ってますんで」

「んなこと言って、都合のいい時だけ連絡してきやがるんだから。嫌なガキだよ、お前らはよぉ」
< 88 / 286 >

この作品をシェア

pagetop