徒花
「夜景を見るのが好きだなんて、意外とロマンチストなのね」

「まぁ、男はみんな、実はロマンチストらしいけど。でも俺は、どっちかっていうと、世界征服がしたいのかもしれない」

「……世界征服?」

「そう。ここから見える景色は全部俺のもんだー、とか言ってみたい」

「何それ、壮大すぎでしょ」


笑ってしまう。

どこからどこまでが本気なのかは知らないけれど、でも面白い男だと思った。


彼方まで続く街の明かりを、私たちはただ眺め続ける。



「夢を語るのはいいけど、あなたいくつ?」

「ハタチ」

「うそっ、私と同い年?!」


驚いた私に反し、コウは飄々としたまま、



「何? 不満?」


自信過剰みたいな笑み。

余裕ぶった顔をして、本当にこれが私と同い年なのかと疑わしくなってしまう。



「見えない。もっと上なのかと思ってた」

「それは俺が老け顔ってことだな? よし、その喧嘩、買ってやろう」


コウはいたずらに私の肩を抱いて、腕で首を締めてくる。



「ちょっ、痛い! 苦しいー!」


タップしながらばたばたする私を見て、笑うコウ。

人懐っこい少年のような目で「思い知ったか」と言いながら、じゃれるように私を抱き締めて。



「なぁ、マリア。俺と一緒にいてよ」


耳元に落とされた言葉。

それは一瞬で私の全身に駆け巡り、甘い匂いと声色に、急激に心拍数が上がる。


私は耳まで真っ赤になった。
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