徒花
父親
5月、中旬。
相変わらずカイくんの姿を見ることはないけれど、誰もそれを気にすることはない。
私とコウはその日もふたりでウエディング雑誌をぱらぱらとめくりながら、
「これは? 背中が開いてる方がよくね?」
「えー? 私はシンプルなドレスの方が好きだけどなぁ。で、その分、カラードレスを派手にして」
「あー、それもいいな。だったら、こっちのは?」
最初は結婚なんてと及び腰だった私だが、ドレスや教会の写真を見ているうちに、だんだんと自分をそこに当てはめては、色々と想像してしまって。
そしたら何だか、そういうのもアリなんじゃないかと思えてきて。
もしかしたらこれこそコウの作戦だったのかもしれないけれど、私はまんざらでもなくなってきた。
「とりあえずさぁ、今度、式場の下見に行ってみる? ドレスにしても、やっぱ実物を見る方がいいっしょ」
「だね」
「俺としては、挙式はクリスマスかバレンタインがいいんだよなぁ。したら、早く日にち押さえなきゃやばくね?」
「また勝手に決めちゃって」
「いや、でも、これは譲れねぇ。どうせならそういう日にやりてぇじゃん」
もしかしたらコウは、女の私よりずっとロマンチストなんじゃないかと思う。
コウは煙草の煙を感慨深げに吐き出しながら、
「俺な、今だから話すけど、お前と初めて目が合った瞬間、ビビビッときたんだよ」
「何それ? しかも表現が古いし」
「あ、俺多分、こいつと結婚するわ、って。直感っていうの? 運命みたいなもんを感じたんだよ」
「マジで?」
「マジで、マジで。すげぇ嬉しかった。だって、そんなこと思える相手に出会えたってことは、奇跡じゃん?」
「なのに浮気したんだ?」
「だからそれは言うなっつーの。アレはただの事故だ」
私は腹を抱えて笑った。
今ではもう、私の中で、笑い話になっていること。