徒花
「しっかし、もしクリスマスに挙式だとしたら、あと半年くらいしかないから、急いで決めなきゃだよなぁ」


コウはまた雑誌に目をやった。

ライスシャワーを浴びて笑う、新郎新婦の写真。


私は息を吐いた。



「でもさ、こういう時に、嫌ってほど実感させられるっていうか。私はパパとバージンロードを歩けないし、親の席はふたつとも空席だよ?」

「………」

「親戚もおばあちゃん以外は色々あって疎遠だから、呼びたくないし。それに友達だって多いわけじゃないしさぁ」


コウは黙って雑誌を閉じた。

そして煙草を消して、私を見る。



「俺は初めから、親も身内も呼ぶつもりねぇよ。だから、一緒だ。心配すんな」

「コウ……」

「あ、そうだ。やっぱり式はふたりだけでしようぜ。お前のウエディングドレス姿を見ていいのは、俺だけだ」

「………」

「そんで、披露宴はパーティ形式だな。仲のいいやつらだけ集めて、わいわいすんの」


それが私のために言ってくれていることであることは、すぐにわかった。

だからその優しさが嬉しくて、私は涙ぐんでしまう。


コウは私の手を握る。



「親がいなくたって、俺がいる。俺がマリアを幸せにしてやるから」

「うん」


私もその手を握り返す。

ぬくもりが、ただただ愛おしくて。



「ありがとう、コウ」


この人を好きになって本当によかったと思った。

心の底から、そう思った。

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