徒花
それから数日経ったある日のこと。
コウは突然言った。
「これから親父に会いに行こうぜ」
私はひどく驚いた。
『これから』だなんて、心の準備さえしていないのに。
いきなりのことにあたふたしている私にコウは、「めんどくさいことはさっさと終わらせるべきだ」と言う。
そしてそのまま、半ば強引に、コウに車に乗せられた。
「ねぇ、私もっとちゃんとした格好の方がよくない?」
「いいって、服なんて何でも。どうせ、結婚しまーす、って言えば終わりなんだから」
「でも……」
「大丈夫だって。いっつも言ってんだろ。俺に任せてりゃいいの」
コウはあっけらかんとして言い放つ。
でも、さすがに不安だった。
まだ見ぬコウのご両親を想像して、今から緊張でどぎまぎする。
「わ、私、何喋ればいいの?」
「別に何も喋らなくていいよ。適当ににこにこしてたらいいから」
「だ、だけど、私、こういうこと初めてだから、どうしたらいいかわかんないよ」
「いや、結婚の挨拶なんて、何回も経験してたら、そっちのがやばいだろ」
「それはそうなんだけど……」
「まぁ、向こうがにこやかに対応してくれるとは思わないし、そこはちょっと我慢だけど、すぐ帰るし、晩飯のことでも考えてやり過ごせばいいから」
コウのこういう性格は、心強い。
私は大きく深呼吸した。
「頑張る」
「おー。さすがは俺の嫁だな」
コウは無邪気に笑っていた。
そういう顔が、私は大好きだった。