徒花
だけど、安心したのも束の間。
コウの実家――白亜の豪邸を見た時、私はまた尻込みした。
「何これ……」
おばあちゃんの家も、確かに他と比べたら大きかった。
けれど、こんなにも、見るからにお金持ちだという造りを好まなかったから、わりと普通だった。
コウの家は、なんというか、
「成金だからな、親父は。だからこういう派手な装飾が好きなんだよ。恥ずかしいだろ、ここに住むの」
そんなことないよ、とは、さすがに言えなかった。
私はよろめきながら足を後退させた。
私、明らかに場違いじゃない。
「か、帰ろうよ。そ、そうだ、出直そう?」
「何言ってんだよ、ここまで来といて」
コウが勝手に連れてきたくせに。
と、私は首を振るが、コウに無理やり腕を引かれた。
じたばたと抵抗するが、そのまま引きずられ、
「ただいまー。おーい。誰かいねぇ?」
でっかい扉を開けて、コウは大理石の敷き詰められた玄関で叫ぶ。
少しすると、ぱたぱたと足音がして、品のいい和服の女性が現れた。
ミスマッチだとか突っ込める状況じゃない。
「……コウ、くん?」
この人が例の、コウの2番目のお母さんだろうか。
「よー、おばさん。帰ったぞ。親父、いるんだろ?」
「え?」
お母さんはコウの突然の帰宅に驚き、そして戸惑うように横にいる私に目をやる。
私は思わずコウの後ろに隠れた。