徒花
「ま、いいや。上がるぜ」
コウは、そしてまた私の腕を引き、「こっち」と言いながら、ずかずかと靴のまま家に入る。
古い和風の家で育てられた私には、それさえ驚きだった。
慌てたお母さんは追い掛けてくる。
「ちょ、ちょっと! コウくん! 待って!」
「うるせぇなぁ。俺が自分の家に帰ってきたのに、何で、この家の血さえ入ってない“他人”のあんたが止めるんだよ」
吐き捨てたコウに、お母さんは途端に悲しそうな顔で足を止めた。
でも、コウはそれを気にすることなく、リビングのドアを開ける。
見るからに高級そうな調度品の数々がところ狭しと並べられたそこから、プールのある庭が見渡せる大きな窓。
皮のソファに腰掛けていた、コウと目元が似ている初老の男性――お父さんが、ぱさりと新聞を置いて、こちらを見た。
厳格そうな人。
「何の騒ぎかと思えば」
「騒いでたのはおばさんだけだろ」
「この家に『おばさん』なぞいない。口を慎みなさい」
お父さんの一喝に、コウは怪訝に舌打ちをした。
ふと、部屋の隅に、小学6年生くらいの男の子がいて、こちらの様子を不安そうにうかがっていることに気付いた。
多分、この子がコウの腹違いの弟なのだろうけど、顔はコウとは似ても似つかない。
「それより、何か用があったから帰ってきたんだろう? どうした?」
お父さんは、掛けていた眼鏡を取る。
早く用を済ませて出ていけと顔に書いてあるみたいだった。
「金か? いくら必要なんだ?」
「違ぇよ。結婚しようと思って、俺」
「結婚だと? 何をふざけたことを言うのかと思えば、貴様は」
お父さんは鼻で笑った。
コウは、そしてまた私の腕を引き、「こっち」と言いながら、ずかずかと靴のまま家に入る。
古い和風の家で育てられた私には、それさえ驚きだった。
慌てたお母さんは追い掛けてくる。
「ちょ、ちょっと! コウくん! 待って!」
「うるせぇなぁ。俺が自分の家に帰ってきたのに、何で、この家の血さえ入ってない“他人”のあんたが止めるんだよ」
吐き捨てたコウに、お母さんは途端に悲しそうな顔で足を止めた。
でも、コウはそれを気にすることなく、リビングのドアを開ける。
見るからに高級そうな調度品の数々がところ狭しと並べられたそこから、プールのある庭が見渡せる大きな窓。
皮のソファに腰掛けていた、コウと目元が似ている初老の男性――お父さんが、ぱさりと新聞を置いて、こちらを見た。
厳格そうな人。
「何の騒ぎかと思えば」
「騒いでたのはおばさんだけだろ」
「この家に『おばさん』なぞいない。口を慎みなさい」
お父さんの一喝に、コウは怪訝に舌打ちをした。
ふと、部屋の隅に、小学6年生くらいの男の子がいて、こちらの様子を不安そうにうかがっていることに気付いた。
多分、この子がコウの腹違いの弟なのだろうけど、顔はコウとは似ても似つかない。
「それより、何か用があったから帰ってきたんだろう? どうした?」
お父さんは、掛けていた眼鏡を取る。
早く用を済ませて出ていけと顔に書いてあるみたいだった。
「金か? いくら必要なんだ?」
「違ぇよ。結婚しようと思って、俺」
「結婚だと? 何をふざけたことを言うのかと思えば、貴様は」
お父さんは鼻で笑った。