徒花
「ふざけてねぇよ。本気だ」


けれど、お父さんは無視して私を一瞥し、



「相手はそちらのお嬢さんか? 何だ? 子供でもできたのか? 堕ろす金がないわけじゃないだろうに、血迷いおって」

「はぁ?」

「大体、貴様は結婚というものがどういうものかわかっているのか? 妻子を体ひとつで支えていくということだぞ? ろくに仕事さえしたことのない、お前が?」

「………」

「結婚すると言うなら、もうわたしから金を送る必要はないということだろう? まさかわたしの金で家族を養うつもりじゃあなかろうし」

「………」

「どうした? 違うのか?」


コウは奥歯を噛んで拳を作った。

さすがにお母さんが、



「あ、あなた。何もそんな言い方は……」


けれど、お父さんはさらに言う。



「何が『本気』だ。ふざけてないとはよく言える。わたしは貴様のままごとに付き合ってやるほど暇じゃない」

「………」

「そのお嬢さんがどういう人間かは知らない。もしかしたらとても素晴らしい人間なのかもしれない。が、わたしは認めない」

「………」

「それが要件だというなら、もう話は終わりだ。さっさと『この家の血さえ入ってない“他人”』のそのお嬢さんを連れて、帰りなさい」


コウは拳を震わせ、ガラステーブルをガッと殴りつけた。

パリン、と音を立てて蜘蛛の巣のようになる、ガラステーブル。


私と、お母さんと、弟くんは、ひっと顔を引き攣らせたが、お父さんは眉ひとつ動かさない。



「貴様は昔からそうだ。我が儘が通らなければすぐに駄々をこねて物を壊して。子供の頃から何の成長もしていない」

「何だと?」

「母親の教育が悪かったんだ。貴様を甘やかし過ぎたから、こんな人間になってしまった」

「黙れよ、クソジジイ!」
< 98 / 286 >

この作品をシェア

pagetop