ふたつの恋と愛
第一節
大型ショッピングセンター建設の煽りを受け、人通りもまばらになった商店街。
店じまいが相次ぐ閑散としたその一角、赤煉瓦造りのレトロな喫茶店。
直輸入の自家焙煎珈琲、毎朝パティシエが丹精込めて作り上げる宝石みたく綺麗なケーキ。
創業時から地域に愛され、不況の波にも負けず営業する
喫茶ーークラナド
ここが私、木嶌咲希(きじまさき)がバイトしている場所。
「おはようございまーす」
店の扉を開けると、芳醇な挽きたて豆の薫りが鼻をくすぐり自然と笑顔がこぼれる。
今日も店内はほぼ満席状態、来店を告げるカランコロンの鐘の音に数名のお客さんがこちらを振り向いた。
「お、看板娘! 今日も元気だね!」
「咲希ちゃんじゃない〜、こんにちは〜」
「咲希ちゃん今日のテストはどうだったんだい?」
矢継ぎ早に声をかけられるのは、私がこの店に馴染んできた証拠。
「いらっしゃいませ! ゆっくりしていってくださいね! 後、テストは聞かないでください…」
壁に掛けられたエプロンを手に、私は苦笑気味に会釈しカウンターへ向かう。
背中越しに聞こえる談笑の中に「あれはヤマが外れたんだね」と見事に図星を突かれたことは内緒にしておこう。
クラナドは今日も、賑やかさの中に穏やかで暖かい雰囲気が満ちている。
確かな腕と舌を持っているだけでは作れない、人を暖かくする心を持っている店主がいてからこそのクラナド。
私がカウンターに入ると同時に、レジ下に設置したタイムカードを押したその人。
「おはよう咲希ちゃん」
鼓動が早まるのがわかる。
私だけに向けられたその笑顔は、今日も今日とて私をときめかせるには充分すぎるものだった。
クラナドの店主ーー平井亮(ひらいりょう)。
線の細い印象を受けるが体は意外とがっちりしており、人柄の良さそうな雰囲気とは裏腹に違う一面も持っている。
それを知ってるのはきっと、私だけ。
「亮さん、おはようございます」
「今日ラストまでなんだけど…大丈夫?」
更に、胸が高なる。
「…はい、平気です」
亮さんの表情が和らいだ。
店じまいが相次ぐ閑散としたその一角、赤煉瓦造りのレトロな喫茶店。
直輸入の自家焙煎珈琲、毎朝パティシエが丹精込めて作り上げる宝石みたく綺麗なケーキ。
創業時から地域に愛され、不況の波にも負けず営業する
喫茶ーークラナド
ここが私、木嶌咲希(きじまさき)がバイトしている場所。
「おはようございまーす」
店の扉を開けると、芳醇な挽きたて豆の薫りが鼻をくすぐり自然と笑顔がこぼれる。
今日も店内はほぼ満席状態、来店を告げるカランコロンの鐘の音に数名のお客さんがこちらを振り向いた。
「お、看板娘! 今日も元気だね!」
「咲希ちゃんじゃない〜、こんにちは〜」
「咲希ちゃん今日のテストはどうだったんだい?」
矢継ぎ早に声をかけられるのは、私がこの店に馴染んできた証拠。
「いらっしゃいませ! ゆっくりしていってくださいね! 後、テストは聞かないでください…」
壁に掛けられたエプロンを手に、私は苦笑気味に会釈しカウンターへ向かう。
背中越しに聞こえる談笑の中に「あれはヤマが外れたんだね」と見事に図星を突かれたことは内緒にしておこう。
クラナドは今日も、賑やかさの中に穏やかで暖かい雰囲気が満ちている。
確かな腕と舌を持っているだけでは作れない、人を暖かくする心を持っている店主がいてからこそのクラナド。
私がカウンターに入ると同時に、レジ下に設置したタイムカードを押したその人。
「おはよう咲希ちゃん」
鼓動が早まるのがわかる。
私だけに向けられたその笑顔は、今日も今日とて私をときめかせるには充分すぎるものだった。
クラナドの店主ーー平井亮(ひらいりょう)。
線の細い印象を受けるが体は意外とがっちりしており、人柄の良さそうな雰囲気とは裏腹に違う一面も持っている。
それを知ってるのはきっと、私だけ。
「亮さん、おはようございます」
「今日ラストまでなんだけど…大丈夫?」
更に、胸が高なる。
「…はい、平気です」
亮さんの表情が和らいだ。
< 1 / 3 >