ハッピー☆ウエディング

「葵」

「なっなに?」


急に名前を呼ばれて、あたしの体はビクンと小さく震えた。

そしてゆっくりと視線を慶介に向けた。


慶介は、ソファに浅く腰をかけて首を後ろにもたげている。




「おいで」




ええぇ?



そう言って、両手を広げて見せた慶介はにっこり笑った。

あたしの顔は見る見るうちに赤く火照っていく。


“早く”と言うように、広げた手をクイッと動かした。



「・・・・・・」




あたしは渋々慶介の傍による。



「きゃっ」



慶介はあたしの腕を掴むと自分の方へ引き寄せた。




暖かな柔らかい感触。



慶介の甘くてほんの少しだけ苦い香り。



あたしはそれだけで鼻の奥がツンとしてしまう。








慶介は抱き締めた腕に力を込めた。








「・・・・ごめんな」


「・・・え?」



耳元で聞こえる低くて少しかすれた声に、そこからあたしの体は反応してしまう。




あたしは慶介の顔を見上げた。
息がかかるくらい近くにある慶介の綺麗な顔。
メガネの奥の瞳があたしを映してる。


「今まで黙ってて悪かった」

「・・・・」


あたしは、唇をキュッと結んだまま首を振った。

簡単に話せるような内容じゃない。
どんなに辛かったか・・・・


まだ、両親がなくなって4年しかたってないんだもの。



あたしなら、きっとまだ引きずってると思う。




「話してくれてありがとう」




あたしはそう言って、精一杯の笑顔を作った。



あたしに出来る事はこれくらいしかないから。


< 224 / 337 >

この作品をシェア

pagetop