ハッピー☆ウエディング


社長は、湯呑のお茶を飲み干すと一枚の紙を机から取り出した。


瑛太はそれが何であるかを確認して、眉を潜めた。




『・・・・婚姻届?』




緑色の文字で“婚姻届”と書かれたその紙には、一ノ瀬慶介と植草葵の名前もあった。
あとは、役所に提出するのみになっているようだった。




『あの二人には、こちらの都合で振り回してしまって申し訳ないが、この縁談は白紙に戻してもらおう』




『は?・・・・ちょっ・・・待てよ。二人に話を聞いてからの方が・・・』


『お前は黙っていろ』




納得いかないと勢い良く立ち上がった瑛太を社長は厳しく制止した。


大きな瞳が瑛太を真っ直ぐ捕らえた。


その鬼気迫る表情に、瑛太は力なくソファに身を沈めた。




『・・・確かに・・・確かに俺のせいでこんな事になったかもしれないけど・・・』





『そうだ。

だが、慶介君にもこの契約をする時に話はしてある。
お前が見つかり次第この話はなかった事にする、と。

それをわかった上で自ら保険になると快く承諾してくれたんだ。
だから、精力的に瑛太を探していたんだろう。

これで、慶介君も安心しているはずだ』







そう言って、社長は誰かに電話をかけはじめた。



瑛太は机の上に置かれた、書類をじっと見つめていた。

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