ハッピー☆ウエディング


『どうした?どこかケガしてる?』



その人はあたしの両手を掴むと、
『ごめんね』と言いながら怪我をしていないかを確かめているようだった。


あたしはその人の手が、冷たく濡れている事に気が付いた。


顔から見る見る血の気が引いていくのが自分でもわかった。



『・・・あ、あの』




どうしよう・・・


あたしよそ見しててこの人に気づかなかった・・・



今にも泣き出しそうな震える瞳で見上げると、それに気づいたのか彼は柔らかく笑ってこう言った。



『大丈夫だよ。すぐに乾くし。
それにこの部屋暑くてまいってたんだ。涼しくなってちょうど良かった』



そして、綺麗な顔をくしゃくしゃにして笑った。





・・・・・・・




あたしは、その顔から目がそらせなくて。

そのまま・・・

一瞬にして心を奪われてしまっていた。






『葵・・・どうしたんだ?』



その声にハッと我にかえると、お父さんが亮を連れてこちらに向かって来ていた。


たぶんなかなか帰ってこないわが子を探しにきたんだろう。


お父さんは、あたし達の状況に気づくとその目を大きく見開いた。




『おわッ!?・・・・・一ノ瀬君、どうした?そんなに濡れて・・・・』








イチノセ・・・・・・・?







『いえ。暑かったんで涼んでました』


『は?』




お父さんは訳がわからないとゆう様子で首を捻った。



一ノ瀬と言う人はそう言ってあたしに視線を落とすと、人差指を唇に当てて悪戯に笑った。






これが、本当にあたしと慶介が初めて出会った時。


あたしは大人なのに無邪気な笑顔を見せる“一ノ瀬”と言う人に丸ごと心を持っていかれたんだ。





あの時の慶介と、今の慶介は雰囲気が変わっていて気が付かなかった。


変わってないのは・・・・

その笑顔だ・・・・。

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