ねえ、君にもし、もう一度会えたなら。
ひとり、ふたりと…
小さくなる背中を、いつまでも見送って。
年甲斐もなく……
大きく手を振って。
「またね!」
…と、叫んでみる。
薄暗い小さなバー。
2次会の会場。
間接照明の温かい光が、残された6つの影を…
もの寂しく、浮かび上がらせる。
時間は既に…
午前1時を回り。
話す会話も……
別れの時を象徴するかのように、
静かに、
静かに……
時を重ねていく。
真っ赤な顔をした…しんちゃんは…
時折、こくりと頭を上下させ。
悟りを開いた恒生さんの…蘊蓄に、真剣に頷いている…利央。
唯一しらふのみっちゃんは…
家族に連絡しているのだろうか、席を外して…
電話を掛けている。
早瀬は……。
カウンターへと移動して、マスターらしき人と…談笑していた。
昔からそうだったけれど…。早瀬は、いつ、どんな所に居たって。
まるでずっとそこにいたかのように…
私の見る風景へと、溶け込んでいく。
「…………。」
悪戯っ子だった面影を…
ずっと探していたけれど。
マスターと話すその穏やかな口調と、
大人びた横顔に……
胸が、トクトクと…音を立てていた。
知っている早瀬と。
知らない…早瀬。
「紗羽ちゃん、ちょっとこっち来て。」
振り返った彼が…私に手招きする。
「……?なに?」
こっそり見ていたつもりが、バッチリと視線を合わせてしまって…ドギマギした。
カウンター。
早瀬のすぐ隣りに…腰を下ろす。
コトリ。……と、目の前に置かれたのは…
カクテルグラス。
「……わ…、綺麗…。」
透明なお酒…。
グラスの底には、鮮やかなグリーン色の丸い物が…沈んでいて。
グラスの縁が…
照明に照らされ、キラキラと光を…放っている。
雪の…結晶みたいな。
「……?これ……。」
「紗羽ちゃんに、ピッタリかと思って。」
なんていう、こそばゆい台詞を言うかな…。
「……。この丸いの…、梅?」
「………。」
「…ちょっ…、なに?何で黙るの?」
じっと私の目を見つめたままの早瀬。
その…数秒後。
笑いを堪えていたのか、口の端が…僅かに綻んでくる。
「だって、カクテルとかあまりのまないんだもん!」
とうとう彼は、
ぷっとふきだして。
さもおかしそうに…笑い出す。
「うん。さっきの居酒屋でも、そうだったね。これ…、梅酒。」
「……へー…、綺麗だね。……?…って、何で笑うの?」
「うそ、ジョーダンだし。中に入ってるのは、梅じゃなくて…ミントチェリー。ウォッカベースのカクテルだから。」