ねえ、君にもし、もう一度会えたなら。
体育の授業がない時間帯に、高校のグラウンドに訪れては……
少しだけ、かけっこやマスゲームの…練習。
前の授業で、1年生が体育をしていれば……
必然的に、会ってしまうのだ。
なぜなら。
彼の担当教科は……体育。
「お。来たなー、ちびっこ!」
入れ替わるタイミングで、早瀬は子供達に…声を掛ける。
何度か会っているせいか、子供達もまた…、早瀬のことをちゃんと覚えている。
「僕、速かったでしょ?見てた?」
「おー、見てた見てた。速かったなあ~。」
コラコラ、見てないでしょうよ?
お調子者っていうか…
要領いいっていうか…。
「キョロキョロしてないで、真っ直ぐゴールだけ見て走れよー?」
でも……
子供が好きっていうのは…本当らしい。
わしゃわしゃと頭を撫でたり…、
わざとお尻を叩いたりして、
上手にコミュニケーションを図っている。
まるで…
親子みたい。
「紗羽先生も同じこと言ってたよ?」
「……ん?」
笑った顔のまま……
早瀬がこちらに振り返る。
「じゃあ…、間違いないな。紗羽先生は、足が速いから。」
「………ハ…?」
いやいや、おにーさん…、ご冗談を。
むしろ、苦手ですから…。
「じゃあ、センセー、『頑張って』。」
いつもいつでも…
飄々として去っていく彼に。
言い返す言葉を…持ち合わせては、いなかった。
高校時代と同じ……。
振り回されてしまう。
「同級生なんだって?かっこいい先生だよね。」
私と年が近い、紘子先生が…
こそっと耳打ちしてくる。
「……ええ、まあ…。」
「紗羽先生にハナ持たせようって…気をつかっちゃって。……モテるでしょ?独身…?」
「モテて…ましたね。結婚はまだしてないみたいですけど……。」
「………。元彼だったり?」
「…しませんっ。」
「じゃ…、紹介してもらっても…いい?」
「…………。」
紹介……?
私が…?
「………あの、えーと……。」
………ダメだなんて、
言える立場でも…ない。
「………。冗談だって。アラサーにもなって、ウブなんだから。」
紘子先生は、アハハ、と笑い飛ばして…。
「駄々漏れよ、紗羽先生。」
「………ええっ…。」
「う~…ん、青春してるねえ?」
「……はあ…?」
「初恋の相手か…何か?」
「……そんなんじゃ…。」
「初恋って…特別だもんね。忘れたくても…忘れられない。呪縛みたいなもんかな…。」
「…………。」
「よくある話だよ、再会したら…再燃しちゃうって。」
「………………。」
「……付き合ってる彼が…いるんだよね。」
「……はい…。」
「だったら、過去に囚われたままの呪縛なのか…、それとも、本当の恋なのか。……後悔しない道を…冷静に、選ぶべきだね。」