ねえ、君にもし、もう一度会えたなら。
カラ、コロ…と。
小気味良い音が…夜空に響き渡る。
「……早瀬…。寒くないの?」
「………。……寒いっ。失敗したっ…。」
音を鳴らすのは…早瀬の、足元。
宿で貸し出ししている下駄を履いて…温泉街を闊歩していた。
「……アホだねえ…。12月だよ?」
「や、情緒出るかなーって思って。」
「霜焼けになるよ?」
「温泉で温めるからいーもん。」
川を挟んで…。その、両側に。温泉宿が…軒を連ねている。
薄暗い街灯の下。
両側の道を繋ぐ橋の中腹で…
私達は、足を止める。
水面に…ぼんやりと月が浮かんで、幻想的な世界に…二人、取り残されたようだった。
欄干に手を置いて。
「魚、泳いでないかなあー。」
早瀬が、身を乗り出す。
「………。危ないよ、早瀬。」
「……んー…、見えない…。」
「……ちょ…、危ないって!」
まっ暗い川の中に…引き込まれるような、妙な感覚になって。
思わず…
早瀬の丹前の襟を…引っ張った。
「うわっ…。」
足元をふらつかせた君の体を…私は、慌てて抱き支えた。
「……ご…、ごめん。」
体を離そうとすると。
早瀬の腕が…私をぎゅっと抱き寄せて。それを…許さなかった。
「……早瀬……?」
「……ごめん。寒いから…もうちょっとこうしてたい。」
「……酔ってるの?」
「まさか。」
「…………。」
「……あのさ。紗羽ちゃん、温泉に入った?」
「……?うん。入ったけど……。」
「……。いい匂いする。それから、うなじ…ヤバイ。」
君は私の肩に顔を埋めて、はあ~って、大きく…溜め息ついた。
トクン、トクン…と。
一定のリズムで音を奏でる…早瀬の鼓動が。
心地よかった。
「……早瀬…、疲れてるんでしょ。宴会中、動き回ってたもんね…。」
「んー……、まあね…。」
「部活もあったんでしょ?サッカー、全国に行くんだって?すごいね。だから…、今日は来ないのかと思ったよ。」
「………。うん、でも…来ないわけないじゃん。紗羽ちゃん来るって分かってて。明日…朝イチで帰るよ。」
「…………。」
私が居るから。
わざわざ…来てくれたの?
「応援…、来る?一回戦…、大晦日だけど。」
「……大晦日…。行きたいけど、ちょっと無理かな。」
「……そっか。残念…。……なあ、紗羽ちゃんさー……。」
「……んー…?」
「さっき、ゆってぃーに何かされなかった?」
「何も?話してただけだよ。」
「……なら、いーんだけど。」