ねえ、君にもし、もう一度会えたなら。
からん、と足元から音がして。
早瀬の体が…離れていく。
途端に、夜風に晒された私の体が…冷たくなって。
君のぬくもりが…恋しくなった。
君は、私の目の前で…。
宿から借りた番傘を…思いっきり開いた。
「び……!…っくりした~!」
「どーだ、景観に馴染んでるだろ?」
悪戯っ子な顔した君は、ははっと笑って見せたけど。
その笑顔が…宙に浮いていた。
「……これ以上近づかないよーに、ガードしとくわ。」
「……え?」
「……だいぶ、堪えた。」
「………?」
「紗羽ちゃん。……プロポーズ、されたって?」
「………!何で…早瀬が知って……。」
「何でだろうね。聞きたくもないのにさー…、やっぱ聞こえてしまうんだよね。人と…繋がってると。」
ああ……、そうか。
知ってるとなれば。
あの二人しか…いないじゃないか。
「……でも、むしろ…今は感謝してる。知らなくて、どうにもできなかった方が…怖いから。」
「……早瀬…、私…」
「……うん、何も…言わないで。」
「……?」
「ちょっと、かっこいーじゃんとか…思ってさ。くやしかったり…。」
「…………。」
「……返事は…したの?」
「……まだ。今度…会いに行ってから。」
「……そっか。……そっか…。」
傘をさしたまま、背中を向ける…早瀬。
「ヨシ…、帰ろっか!」
「えっ?もう?」
「色んな意味で…限界っ。温泉入ってあったまろ?明日も…早い。」
「………でも……。」
「駄目だって、これ以上。タガ…外れんじゃん。」
「…………。」
「……。紗羽ちゃんが…暖めてくれるなら。もう少し…ここにいれるけど。……なーんて、じょうだ…」
早瀬の手から…。
傘が、転がり落ちる。
君の寂しそうな背中に抱きついたまま…。
私は、必死になっていた。
君が背中を向ける時は…嫌な予感がするから。
また、どこかに行ってしまうんじゃないかって…思ってしまうから。