ねえ、君にもし、もう一度会えたなら。
コバルトブルーの屋根。
塗装の剥げた…白い壁。
歩く度に、軋む…床板。
決して新居とは言えないけれど、
新鮮でも―…ないけれど、
記憶の片隅に残る残像が…
急に、色を取り戻していく。
ちゃんと地に足がついているんだって…実感する。
「早瀬ー、そっちはどう?進んでるー?」
私は、キッチンからひょいっと顔を覗かせて。
そこにいるはずの早瀬に…声を掛けた。
10畳あまりのフローリングに散乱する、大量の段ボールが目に入って。
若干…くらっと目眩がした。
君からは、返事は―…ない。
「早瀬ー?」
「…………。」
「…………?」
よくよく見ると、君はこっちに背を向けて。
愛犬のブルーと…戯れている。
「もー…、これじゃあいつまでも終わんないよ~。」
目に入れても痛くないってくらいに、ブルーが可愛いいってことは…十分に承知だ。
ここに来てから、ブルーもまた…何かを感じているのか。
尻尾を振っては―、ずっと早瀬の周りをうろついている。
「仕方ない、か――…。」
ここは、二人の…思い出の家。
ブルーにとっては、産まれ育った場所へと、久しぶりに帰って来たんだから…。
「……何―?」
数秒経ったくらいだろうか…。
君は、突然こちらへと…振り返る。
「ん、何でもない。」
私はキッチンへと戻って。
食器棚へと…皿やコップを片付け始める。
だけど、やっぱり数分も経たないうちに、そろりと…また、顔を覗かせる。
「思い出すなー…、やっぱ。」
風に揺れる…カーテン。
立ち込める…夏の空気。
空の色と同じ、制服の…青。
「だからー、……何?」
ブルーに向けていたはずの、茶目っ気たっぷりの瞳が。
いつの間にやら…こっちへと、向けられていた。