ねえ、君にもし、もう一度会えたなら。
東京の無認可保育園に勤めて…8年。
憧れだった東京の街にも慣れ、足早に歩く人ゴミさえ上手くすり抜けるようになって。
何もかもが順調であった。
仕事も恋愛も…それなりに、器用にこなして。
だけど……
父の訃報に、
私は…いよいよ、人生の岐路に立った。
一生付き合うかと思われた、喧騒からも離れ…
独りになった母の元へと、私は…帰ってきた。
再就職したのは…
地元の私立幼稚園。
一年契約の…臨時採用。
「静かだな……。」
田舎の夜は……、
とても静か。
忙しいさから解放されたかのように錯覚するような……
穏やかな夜。
「お母さん、キャベツとか…何でもいいんだけど、野菜、なんかない?」
私はキッチンの隅に立って。
忙しく料理を盛りつける母に…声を掛ける。
「そりゃあ何かかにかはあるけど……。」
「少しちょーだい。」
「……?何でまた?彼氏にでも何か作るの?」
「…………。そう。うさぎ君に、うこっけい君にね。」
「………は?」
「よーちえんの年長児が世話してるの。びっくりしたよ、うこっけいの卵で作った煮たまご、すっごいおいしい。」
「……そりゃまた高級品を…。」
「威勢のいい雄なんて足元に攻撃してくるんだから。あ…、長靴も買って来なくちゃ。」
母はぶつぶつとつぶやく私に、ははっと笑って。
「色んな経験させて貰ってるようだね。」
どこか…嬉しそうに、微笑む。
「そうだね、ホント…何もかもが初めてみたいで新鮮。楽しいけど…体力がもたない。帰ってきて一人だったら…夜ご飯も食べれないくらいかも。」
「馬鹿だね、まだまだ若い癖に。『郷に入っては郷に従え』。まだまだ体が働く歳なんだから…早く慣れなさいな。」
「……ん、努力します。」
明日への力になるのは、
母の愛情こもったご飯に…、
さりげない、挨拶の言葉。
「「いただきます。」」
手を合わせて…、声を揃える。
一人の時には必要なかったそんな言葉達の大切さが……
身に、しみる。