【BL】初恋いただきます。
高島ってもしかして………。
「お兄さん、どんな人なの?」
「もうどこを取っても自慢!見た目もモデル並みに格好いいし、スポーツも出来るし、頭も俺より全然いいんだ。性格はクールだけど、それがまたいいんだよなぁ。」
お兄さんを語る高島は饒舌だ。
「高島はお兄さんこと好きなんだね。」
「…………うん、好き。だって、兄弟だしね。」
ああ、やっぱり高島は恋愛の意味でお兄さんが好きなんだろう。
けれどそこまで踏む込むほど野暮な性格ではない。
「歳離れてるってことはもう社会人?」
「とっくの昔にね。」
「何してるの?」
「兄ちゃんはね、あ!あれ俺の家ね。」
高島の指差す紺色の屋根の家が、そうらしい。
豪邸とまではいかないにしても、立派な家だ。
感心して視線を向けていると、玄関先に人影が見えた。
「誰か立ってない?」
「え?あ、ほんとだ……て言うか、あれ兄ちゃんだ!」
目を凝らして自分の兄だと分かると、少しばかり高島の歩幅が広くなったように思う。
「家の前でどうしたんだろ?そうそう、兄ちゃんはね」
近付いてくる俺達に気が付いたようで、高島のお兄さんらしき人がこちらに振り向いた。
その姿を見て、俺はだんだんと歩くスピードを落とした。
「兄ちゃんはね、児童養護施設で働いているんだ。って、西條どうしたの?」
高島は完全に固まってしまった俺を振り返り、きょとんとした表情を見せる。
高島の言葉に反応できなかった。
する余裕がなかった。
………知ってる。
俺は知ってる。
あの人の顔を。
あそこで、あの場所で、あの施設で、あの地獄で……
間違いなく見たことがある顔だ。
男がゆっくりと近付く。
俺は反射的に後退する。
「早く帰ってくれてよかった。家の鍵を忘れてしまってね。」
「なんだ、そう言うこと。」
「彼は波瑠の友じ………ーー!」
「あ、そうそう。西條 涼って言うんだ。今日から試験勉強しようと思って。西條、こっちが陸(リク)兄、俺の兄ちゃん。」
俺の名前を聞いた高島 陸は少し驚いたような顔をして、こちらを見る。
「西條 涼………?君、もしかしてーー」
言い掛けて伸ばされた手。
怖い……
だめだ、この手に捕まったらまた戻される。
あの人のところに。あの地獄に。
逃げなきゃ、
逃げなきゃ、
捕まったらだめだ。
「え、西條!?」
懸命に足を動かしながら、高島の呼び止める声を聞いた気がする。
伸ばされた手から逃げるために、俺は必死に走った。
苦しくなる息なんてどうでもよかった。
逃げないと。
帰らないと。
………でも、どこへ?
わからない。気持ち悪い。
思考がぐるぐるする。
“誰も愛してくれない”
……違う。
“お前はもう知っているはずだ”
………誰だっけ?
“愛が何なのかを”
………愛って、どんなものだっけ?