【BL】初恋いただきます。
要さんは少し険しい顔をしたまま、俺の頬に触れる。
「そいつがお前を苦しめた奴か?」
「ううん、違うよ。あの人は確か………記憶が曖昧なんだけど教育実習生的な感じだった気がする。要さんに引き取られる少し前に来てたんだ。」
「そうか………」
険しい表情のまま、考え込むように要さんは黙った。
「要さん?」
「ああ、悪い。少し考えていた。……もしそいつがお前を苦しめた奴だったのなら、同じぐらいの苦しみを味あわせてやれたのにってな。」
「要さん………」
冗談混じりのようにも聞こえるけれど、要さんの目は真剣そのもの。
「いつになったら………」
徐に呟いた要さんは、優しくゆっくりと俺の体に腕を回した。
「お前の苦しみを消してしまえるんだろうな。」
回された腕がしっかりと抱き締めてくれる。
要さんの匂いと、温もりと、心臓の音。
伝わる全てが俺を安心させてくれる。
途端に視界が歪んだ。
温かな感触が頬を伝う。
「………めんな、さい。……ごめんなさい。」
「謝るな。そうじゃない……責めて言ってるわけじゃない。何もしてやれない自分に苛立っているんだ。謝るのは俺の方だ。」
「違っ……違う。要さんは、俺にたくさんのモノをくれてる。あとは俺が……俺が自分の力で乗りきらなきゃダメなんだ。もっと強くならなきゃ。」
人に愛される喜びも、
人を愛する幸せも、
難しい初恋も、
誰かと過ごす温もりも、
独占欲や嫉妬心も、
全部全部、要さんが教えてくれたことだ。
与えられたものが多すぎて、同じだけ返せる自信はない。
だからせめて、
「今はまだ昔のことを忘れることは出来ないけど、いつか必ず乗り越えてみせるから」
要さんがこの先も求めてくれるのなら……
「だから、これからもずっと要さんのことを愛していていいですか?」
傍に居て、その気持ちに応えたいと思うんだ。
「俺がお前を愛す代わりに、お前も俺を愛すんだ。」
聞き覚えのあるフレーズだ。
「覚えてるか?お前を引き取った時、俺が言った言葉だ。」
「うん。よく覚えてる。」
「少し訂正する。例え涼が俺を愛してくれなくなったとしても、俺はこの先ずっと愛し続けるよ。涼を、涼だけを。」
際限なく増えていく愛しい気持ちは、どこまで広がっていくのだろう?
「焦らなくていい。ゆっくりでいい。一人で頑張らなくていい。一緒に乗り越えていこう。」
「ありがとう、要さん。」
要さんの腕の力は緩むことはなくて、抱き締めあったまま朝まで眠りに就いたのだ。