【BL】初恋いただきます。
「あの時、私は教育実習生としてあの施設に赴いた。辛いかもしれないが教えてほしい……君はあの先生に」
「……お察しの通りです。……性的暴行を受けていました。」
お兄さんはまた、そうかと呟き、俯いた。
「おかしいとは薄々感じていたんだ。あの先生、君に近づこうとすると恐ろしい剣幕で睨んできていたから。それに、当時の君は………その………上手い言葉が見つからないが、まるで心が死んでしまっているような目をしていた。」
申し訳なさそうに言うお兄さんに対して、俺は少し笑った。
「確かにそうだったかもしれません。」
「あの時助けてあげられなくて、申し訳ない。ずっと気掛かりだったんだ、君のこと。」
その言葉に俺は首を横に振る。
「悪いのはあの人と俺自身です。気に病まないで下さい。」
「しかし……」
「今日は一言だけ聞いてほしくてお呼びしたんです。俺、今すごく幸せなんですよ。心からそう思えてるんです。貴方の顔を見て動揺してしまったように、昔のこと無かったことには出来ません。それでも今、胸を張って幸せだと言えるんです。」
ベンチから立ち上がり、お兄さんを振り返れば、不思議そうな面持ちでこちら見ていた。
「これってすごく幸福なことですよね!」
微笑んで問えば、
「ああ、そうだね。」
微笑んで返してくれる。
お兄さんもベンチから立ち上がり、手を差し出す。
「会えて良かった。幸せそうで良かったよ。」
差し出された手に自分の手を重ねて、軽く握る。
「これからも幸せであってほしいと願うよ。」
「ありがとうございます。」
「弟とこれからも仲良くしてやってほしい。よろしく頼むよ。」
「こちらこそ。」
人に胸を張って幸せだと言える、小さなことだけど俺にとっては大きな変化だ。