【BL】初恋いただきます。
要さんの頬に触れていた両手を優しく握られる。
「……少しだけ俺の話を聞いてくれるか?」
そう言った要さんは、ちょっと頼りなく、脆く見えた。
頷けば、ゆっくりと話始めた。
「俺の家は、まぁ、なんと言うか……そうだな、世間で言うところの金持ちってやつだった。いや、過去形はおかしいか。今でもそれは変わらない。
父も母もそれぞれ事業で成功してな、お互いに独立して会社を持っていたんだ。
俺と凪は幼い頃から欲しいものは何でも与えられた。
望めば何でも手に入れられた。
ただ一つを除いては。
言った通り両親はそれぞれに会社を持っていたから、家にいることは滅多になかった。
幼い頃から俺達を育ててくれたのは家政婦。
それが当たり前だった。
でもどんなに遅くとも必ず家に帰ってくる両親が好きだった。
誇りに思っていた。
いつか父の会社を凪が、母の会社を俺が継ごうと約束していた。」
そこで一度言葉を止めた要さんは、眉間にシワを寄せ困ったように笑う。
「最初に帰ってこなくなったのは父だった。帰りが遅いだけじゃなく、家にいるタイミングもバラバラだった母との関係は冷めきっていた。
父は別の家庭を持った。母はそれを咎めなかった。
“仕方ないこと”と妙にすんなりと受け入れていた。
それから間もなくして母も帰ってこなくなった。
自分の会社の部下とよろしくやっていると聞いた。
両親は離婚はしていない。だから、俺達も形式上は捨てられた訳ではない。
でも現実は捨てられたも同然。
俺達が小学生の頃の出来事だ。
それから凪は俺に執着するようになった。
何をするにも一緒に行動したがった。
俺は何も言わなかった。凪が満足するなら、それでいいと思った。
高校に入ると凪は女遊びを始めた。毎度毎度面倒事を引き起こしては、俺に愚痴を溢していた。
けど、俺は知っていたんだ。」