風の吹かない屋上で
厳重に板が貼られていた中学とは違い、高校の立ち入り禁止は名ばかりのもので、KEEPOUTの看板が3枚ほど鎖でつるされているだけだった。
簡単な境界線。
つまり入るのは簡単なわけで、難なく看板をひょいと乗り越えた俺は恐る恐る階段を登って行った。
万が一先生と鉢合わせしたらダッシュで逃げて、業者の人がいたら諦めるつもりだ。
最後の段差を登る前にそっと辺りを確認した俺は、釈放された囚人のように晴れ晴れと屋上に足を踏み入れた。
晴れ渡る青空、思わず寝転びたくなるような真っ白な床。
……という気のきいたものではない。
テレビとかで見る屋上とは違い、うちの学校の屋上は荒れに荒れていた。
錆びたフェンスに囲まれた室外機やタンクが低音を響かせている。
床はかろうじて白と判別できるものの、枯葉や埃がうっすら積もり、屋上をぐるりと一周している溝にはゴキブリの死骸が腹を向けて干からびていた。
「きったね……」
上靴の裏が汚れてしまうのは嫌だったけれど靴下が汚れるのはもっと嫌だった。
教室に戻る前にトイレで靴の裏を拭く必要があるなぁとため息をついた。
タンクと室外機の他は殺風景であまりの物の少なさに辺りをぐるりと見渡した。
ひょっとしたら誰かも同じことを考えていて、ここにきてケータイをいじっていたり、恋人と甘いムードになっていたりするんじゃないか。
でもこの汚さだと座ってケータイをいじる気にもなれないし、甘いムードもへったくれもない。
でも誰もいないのなら、むしろ好都合だ。
「へへっ、俺だけの場所」
これから晴れの日はここで弁当を食べよう。
多少汚れているが構わない。新聞紙とかをひけば問題無いのだ。
空を仰ぎ、思い切り背伸びをした。
電線の張り巡らされていない爽やかな五月の空が、広がっている。
心地が良い。とても、とても心地が良い。
その時だった。真っ白な床に浮かぶ灰色の影が俺以外にもうひとつあることに気づいた。
ハッとして後ろを向いた。
フェンスの向こうに小さな女生徒が立ち尽くしていた。