風の吹かない屋上で


駿介は机に突っ伏して寝息をたてている。
向かい合うようにして椅子に座った了平が、ケータイをひたすらいじっている。

夜更かしが癖になっている駿介は昼休みのうちにこうして仮眠をとるのが日課になっている。
でも今日は朝からずっとこんな調子だ。
数学も化学も駿介にとっては大事な科目だから落としたくはないはずなのに、爆睡である。

「駿介、なんでこんなに今日寝てんだよ」
「昨日他校の奴らと夜遅くまで遊んでたんだとよ。弁当の時もずっとこの調子だ」

了平はため息混じりに吐き捨てると再びケータイをいじりだした。

「翔太が気づいてないだけで、駿介はずっと前からこんな感じだ。ゲーセン行った後、この後予定あるからってどっかに行くことが多いしな。翔太も気づいてただろ?」
「……そーゆーことか。俺たちを置いてひでぇじゃねぇか」

確かにここ数日駿介は俺たちの前から姿を消すことが多くなった。
晩飯食っていかないかと誘っても断られることが多かったし、何をしてるのか尋ねてもやんわりほだされていた。

夜遊び。いつから駿介はそんなやつになったんだろう。
この地区は警察が厳しいし、補導されたりしたら迷惑がかかるのは駿介だけじゃないのに。
学校、家族、俺たちにも迷惑がかかるのに。

何より気に食わないのが鼻水を垂らしていた頃から仲のいい俺と了平に何も言わないまま、自分だけが先に先に行こうとする姿勢だった。
駿介は、いつでも俺たちと同じペースで歩いていたはずだ。
そのはずなのに。

「コイツも変わっちまったよな。俺たち、ずっと一緒だったじゃねぇか」

了平のケータイの画面が黒くなる。そろそろ先生がくる頃だ。
俺も了平も授業の準備をして自分の机についた。
眠りこける駿介が心配で、俺は駿介のぶんの教材もさりげなく机にのせておいた。


駿介は父子家庭だ。
父親が仕事でよく家を空けるので俺も了平もそれぞれの家に呼んで駿介と晩御飯を食べたり残り物を分けていたりした。
俺自身最近あまり声をかけていなかったと思う。了平も、駿介以外のやつとつるむことが増えた。

高校というフィールドに出ても俺たちはずっといっしょだと信じていた。
でも、そんなものは当てにならない。世界が広がれば会う人間も多くなるし、いつまでも同じ人間関係に固執する意味は無い。

大人にならなければいけないのだ。

いつか了平も離れていくだろうし、俺から2人を突き放すこともありえるかもしれない。
大人にならなければいけないのだ。
大人に、なりたくないと思っていても。

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