風の吹かない屋上で
風呂から上がって了平の部屋でうどんを食べているとたもとのケータイが振動した。
俺たちが目にしたことのないスマートフォンで、たもと曰く発売前のテスト中の型らしい。
その為料金は携帯会社負担だという。コネというものは強い。
「いまから姉貴が迎えにくるみたいです」
「え、まじか。てかたもとお前ねーちゃんいんのかよ」
ネギを唇の端っこに引っ付けながら了平が目の色を変えた。
「あ、はい。いろいろあって血は繋がってないんですけど、一応姉貴です」
「うらやましーなそれは」
その姉貴が俺たちの高校の2年生学年トップの梶木遥だということはまだ黙っておく。
俺はうどんのつゆをすすった。
「雨がすごいから傘を持って迎えにきてくれるみたいです」
「もう、大丈夫か」
「大丈夫です。……あの、僕のせいで、ごめんなさい」
たもとは駿介の頬の切り傷と左手の甲の根性焼きを見つめた。
赤黒いそれは痛々しく肌に張り付いていて、たぶん半永久消えることはないだろう。
「いいんだ。もう、あんな奴らとはつるむなよ」
「はい」
「それからタメなんだし敬語は使わなくていい。俺のことは駿介、このネギくっつけてるやつは了平、ここの態度でけぇこいつは翔太だ」
ついいつもの癖で勝手に了平の部屋の雑誌を2.3冊手にとって寝そべっていた俺はぎくりとした。
今回の件で一番重症なのは駿介なのに、風呂に入ったときも傷を痛がる素振りひとつ見せなかった。
うどんを食べてからしばらく4人で漫画を読んだりゲームをしたりしていた。
たもとは漫画もゲームも初めてだという。
俺たちは心の底から驚いた。
お金持ちのイメージはありとあらゆる娯楽のグッズで部屋が溢れかえっているものだと思っていたのだ。
「漫画もゲームもこんなに面白いものなんて、知らなかった!」
屈託無く笑う表情は俺が初めてたもとを見たときのそれよりずっと輝いていて生き生きしていた。
玄関のインターホンが鳴った。
遥が来たのだろうか。
たもとを連れてわいわい玄関に行き扉を開けた。
「お兄ちゃん! あんまり遅いから迎えに来たよ!」
「うわっ、美由紀かよ」
「うわって何? せっかく迎えに来てあげたのに!」
そう言って頬を膨らませる。
美由紀は了平が俺たちを迎えに来たようにレインコートを着て完全防備でここまでやってきたらしい。
そういえば昔ゲームソフトを持ってこさせるため美由紀をパシったことが何度かある。
今でも美由紀は学校に行くのにこの道を通るため、了平の家を覚えていたのだ。
「早く帰ろう!おにぃ、ちゃ、ん……」
美由紀の目線が俺の後ろに行く。
少し居心地が悪そうに目を伏せているたもとの顔に美由紀の熱い視線が注がれる。
俺は美由紀をもう一度見た。
今までに見たことがないくらい、その顔は紅潮していて、唇が半開きになっていた。